いねこsaid
彼の言っていることがいつもわからないんだ。
「付き合ってください」
勇気を振り絞って、言った言葉も
彼の深いため息と低い声に罵倒されて
私がまるで悪いみたいに見下された。
.......それなのに、心臓はずっとひっきりなしに早くなっていって
あぁ、好きなんだな
って思わせる。
なんで、憧れのままで良かったのに。
私と彼を従兄弟にさせたの。
「いいから、こい。」
そうやって、私は彼に従うことしかできない。
今引っ張られているこの手を払っても、
彼はまた私を追いかけて、
私の目の前に姿を現して、
私が甘い誘惑に負けたら
彼はまた、怒って、けなして
そして、また私のそばに歩み寄ってくる。
「......わ、わたし、もう龍斗くんと一緒に居たくないっ!」
不意に出た言葉は、敬語じゃなくて
私そのものの今思う気持ち。
これ以上深く無謀な思いを膨らませちゃう自分が怖い。
........こんなに好きになっちゃうなんて、嫌なの。
「はぁ?」
「....お、お願いだから、家に返してよ。」
ピタリと止まった彼の体が大きくて
やっぱり私の小ささが目に余る。
「なにそれ、ノコノコとここまでついてきたじゃん。」
「....違っそれは...龍斗くんが無理やり」
「意味ワカンねぇっーー」
ドンっ
彼の足が白い廊下の壁を強く蹴りあげた。
鈍い音が響く空間に
私は思わず体を震わせる。
ど...うして、
こんな不機嫌になの。
私のせい...?
なんで、こんなの
「...龍斗くん、じゃないよ...ね。
私の知ってる龍斗くんはっ」
......もっと素敵な人
ーーーっ!?
と、言いかけた時
いきなり、ぬるい感触が私の唇を遮った。
「っ!?」
これ以上言うなと口止めするかのように強引に食い込むように押し付けられた彼の唇は
私の全身の力を吸い取った。
思考が停止して
目がチカチカして。
「.....んぅ!」
あまりにも唐突すぎて、冷や汗が体を伝う。
軽く私を抱きしめる彼の手がギュッと
私の腰を握った。
「はっ....は....ふ」
目に光が射したと同じ頃、私に空気が入り込んで
まるで深い深い深海から脱出した時のような
気持ち悪さを感じた。
「..........逆らうんじゃねぇよ。」
優しく私の頭を撫でる龍斗くんの声は小さく私の耳に響いた。
「な、んで」
どうして。
「なんで、そんなことできるの。」
私は純粋に唇についた甘ったるい何かを必死に袖で拭き取った。
それでもなかなか消えなくて
涙が無謀にも何度も何度もほおを伝った。
「.......はぁ?なにやってんの?」
「どうしてっ!どうして簡単にそんなことできちゃうの!?最悪......」
今は彼の顔を見たくはないけれど、
気持ち悪さで目の前がホワついて、
チラリと見えた彼の歪んだ顔に
胸がどこかしか痛くなった。
「......いねこが悪いんだよ。いねこが悪い。」
なんで、どこも悪くないじゃない。
ずるいのは龍斗くん。
私はどうしてこんなに悩まないといけないの?
「....最悪。ファーストキスなのにぃ。」
.......こんなにも好きなのに。
涙が止まらない。