「今日から、この子と俺、旅行行きたいんですけど。」




私は思うがままに、車から降ろされ、彼が私の手を握り、今に至る。




「.....山崎くん、何考えてるの?」




殺風景な廊下をひたすら私の受け答えもなしに勝手に進む彼に、ついていくしかない私で、

たどり着いたのは、大きなお部屋。



そこには高級そうな赤いソファーに
大きな机に、都会を一望できる一面の窓。



そして、ソファーに深く座る、女の人。



年は、30歳くらいで、とても美人。




「社長。この三日間、確か、撮影も取材も何もないですよね?」



ギュッと私の手の彼の指が絡まって、
私は口をパクパクさせた。



「そういうことじゃないでしょ。」



机を強く叩いた、龍斗くんに社長と呼ばれる彼女は、私に目線の先を変えた。




「.......貴方、モデルさんじゃないわよね。」



ジロリとにらみつける鋭い視線につい、私は目をそらす。



何ですかこれ。


そう彼に聴きたくて、彼を見るけど、ずっと目線は彼女の方。



「モデルじゃないです。」


私は、とりあえず凡人であり
モデルなんてキラキラした職業かなんてことを聞かれ、どうしようかと、とまどっていると、彼は私に変わって答えた




.......待ってよもう。

何が何だかわからないのに。





「.....で?モデルじゃないただのちびっこと旅行ですって?わざわざ私に言いにきてなんですか?」




相当、お怒りの模様の彼女は龍斗くんとの距離を詰め寄る。




近くに来るということは、手を握り合っている私にも顔は近づいて



.......彼女はすごい綺麗。





「.....いねこ。山崎いねこ。俺の従兄弟です。」




「へぇーそう。それで、社長の私に用があるのですか?」



ぎらりと彼女の目が光った。




.......あまりにも怖すぎて私は彼女と彼の間に割り込めず無言状態。





「いねこはかわいいから、社長も俺とこの子がスキャンダルに
なるかもしれないと少しでも疑いませんでしたか?」




「.......なるほどね。
山崎くん。貴方はこのことスキャンダルに出たいの?無理よ。こんな子、ただの妹だって見られるわ。」




ふふっと、バカみたいと笑った社長さんに対して
至って冷静沈着な彼。




「いねこのことモデルじゃないわよねって言いましたよね?モデル並に可愛いんですよね?いねこ、モデルでもいけますよね?」




握る力が強く強くなっていく



待ってください。


龍斗くんの言ってることわかりません。



..........可愛いって。



そう彼は私のこと

.....いった?


ぇ?なんで。



どうして....。





「.....山崎さん、貴方はいつになく腹ぐらいね〜。で、?なに?旅行でスキャンダルを取らせたいの?そうしたらあなたの面子も丸つぶれ。貴方はまだ.....憧れの俳優として独り身でいることよ。」





社長さんの言葉に、私は戸惑いを隠せない。



スキャンダル

面子丸つぶれ。

俳優としての独り身。





確かに.....彼のイメージは清楚で清純。

もし、彼に出会う前で彼に彼女ができたら私のショックで生きていけないかもしれない。


面子も丸つぶれの意味も理解ができる。


やっぱり憧れではないんだ。
普通に恋をするんだって。


当たり前のことなのに、普通の高校生の青春とは何も間違ってないのに、
そう思ってしまう.....。




ちらりと、彼の顔を下から見上げた。



少し切なくて悲しげで、複雑な顔の彼に



もしかしたら、今まで俳優、モデルということを背負って、ちゃんと青春していないんじゃないかって。



彼は......本当は苦しんでいるんじゃないかな。



私は、なんとなく、憧れの彼より、今のからかう彼も嫌いではないのかもと思った...。











.....けど、





「まぁ、それ嫌なんで、彼女との旅行取り消して、彼女をモデルとしてここの事務所でオーディションしてください。」






彼の口から出た言葉は、


あまりにも衝撃すぎて



あんぐりと空いた私の口をみて


彼は大きく笑った。





「...山崎くん。貴方って...」




「じゃあ。俺俳優やめますよ?『スキャンダル彼女ができて、旅行で親密デート。憧れの彼はどこに?ファン困惑』なんてどうですか?」



「........少し、外で待ってないさい。」




さぁ、と社長が手を払うと

彼は私の手を引っ張ってドアへ進む。





..............やばい。


思考が停止した