「.....ぇ。」
どうしても、あれでは終わりたくなかった。
悩みに悩んだ末に
終電の電車で俺は彼女のアパートを訪れた。
俺は、もう手放したくはないんだ。
嫌いでもいいから、少しでも喋りたい
話したい。
あの無邪気な笑顔を見せてよ。
驚いて口を開いたままの彼女に俺はゆっくりと息を吸う。
「...住まわせろと言ったはずだ。命令だ。」
俺の口から出る言葉は彼女の顔を歪ませる。
分かってる。
こんな棘のある言葉、誰だって言わないし、好きな女に対しての言い方じゃないことくらい。
なのに...
「.....どうしてきたんですか。帰ってください。」
傷つけてしまう。
もう、どれほど俺は彼女を傷つけた?
触れたいとずっとずっと
願った彼女の手を握ったのは
部屋の隅へ追いやった時で
そして泣かせた。
俺は、喜ばせたいのに
笑った笑顔をして欲しいのに。
どうしても
......不器用になる。
「.....俺、隣の部屋、借りることにしたから。寂しくなったら呼べ。」
.....怯えている彼女さえも可愛くて可愛くて.....
映画だったらあと1時間したら俺の隣にいるのにな。
フルフルと体を震わせる彼女の頭を撫でてやりたい。
「....っいやっ!」
ゆっくりと伸ばされた俺の手は小さな悲鳴とともに弾き返される。
....相当嫌われてるな。
敬語だし...。
なんでこう、うまくいかないんだよ。
俺って、彼女に対しての嫌なものにしかならないのか...?
「...ごめ..............じゃあ、火元には気をつけろよ、お前そんな顔してるからいつかは火事起こすからな。」
あぁ、まただ。
彼女は俺を睨みつけた。
なんでだよ。
俺、どうしてこんなことしかいえないんだよ。
嫌われることしか言ってない。
それは十分頭で理解してるはずなのに
「....いいから出て行ってください。私に付きまとわないで!」
「いや、付きまとってないし、たまたまだし。自意識過剰なんて、いい気味。」
付きまとわないで。
そう言われた俺が俺に対しての苛立ちなのに
それなのに、彼女をまた傷つけた。
自意識過剰をしてくれよ。
俺はお前が好きなんだよ。
もっともっと俺に溺れて欲しいのに...。
「......いい加減にして。ガチうざいんです......もうこれ以上っぅひっく」
ポロポロと流れ出す彼女の雫が俺の靴の色を変える。
この時、男はそっと抱きしめて、ごめんというもの。
だけど、こんな俺じゃあ、なんもできないや。
触る資格なんてないことも、痛む手が物語っている。
「...いねこちゃん」
あぁ、ごめん。
こんなに涙を流させてごめん。
こんなに辛い思いをさせてごめん。
俺がいてごめん。
やっぱり、永遠のヒトメボレ
で終わらせとけばよかったよな。
だってさ、
「もうっもう.....憧れの龍斗くんを汚さないでぇ...」
彼女が好きなのは
彼女の前でしか見せない俺じゃなくて
彼女の前では見せれない俺だから。