「......あのさ。」



ピタリと立ち止まった彼に私は
勢い余って彼の背中に飛びつきそうになった。


「なんですか?」




少し疑いの目で彼を見る。

また私をからかってくるかもしれない。




「....オレ、朝ドラ出るんだよね。」




ぽつりと呟いた声に、私は正直


ぇ?と首をかしげた。




山崎龍斗が朝ドラにでるというのは
前々からニュースになっていたし
この私がしらないわけでもない。





「......また、なんか
からかう気ですか?」




何かの戦闘態勢に入るように身構える私に
彼はくるりと体を向け、




「あはははっはっ」





......大爆笑した。




は?なにこいつふざけてんのか?




そう、カチンときた私は



「どうにかしたほうがいいですよ、その頭。」



といい、彼のお腹にこぶしをいれる。




「いやっ、いねこちゃん、痛くないってー」



確かに鍛えられた腹筋に、痛くなったのは私の方だ。


「あの、なにか大切な話じゃなければ戻ります。付き合いきれません」




やっぱりこの人苦手だ。



山崎龍斗は私の憧れだったのに。




軽く失恋をした気分で、私はきた廊下を戻ろうと体を向ければ





バフッ






「......ごめん。俺と一緒に住むって嫌かな?」





後ろから抱きしめられた。




相手は一人しかいない。





「ぇ......?龍斗...く...ん?」





強く抱きしめるその腕はごつくて、でも細くて、力強くて。




私は何がなんだからわからない。




状況が把握できない。





「朝ドラの撮影......大阪だから...俺、大阪にいなきゃいけなくて...」



後ろから抱きしめられているせいで彼の顔は見えないが
かなりテンパっているように話すから



私の頭ははてなワールド。




「.....ま、え?と....ぇ?」



そして、私もテンパって話すから、お互い何も言えずにただ時間が経つ。




「...だから、その!いねこちゃんは、1人暮らしだろ?だから」



3分。


沈黙がすぎると、彼は言った。





『一緒に住も?』





待ってください。


私は3分で全てを処理できませんでした。







ガラリとキャラが変わった彼。



どちらかといえば俳優の山崎龍斗。




だんだん熱くなる体。





「...え?あの?え?」




戸惑う私に彼は





「ごめん。お願い。」




小さく首にキスをした。






「.......うぇええええ!?」




抱きしめられていた体を剥がし
私は彼の方へ体をむける。





一緒に住む?



どういうこと!?


ねぇ?わけがわからないよ。



そう顔で彼に訴える。



だけど、彼は顔を手で覆い隠していて目さえも見えない。





「ちょ...何か、何か答えてくださいよ!」





アワアワと泡を吹くカニのように
私は涙をひたすら流したながら

この状況を説明してほしいと嘆いた。




この涙は意味なんてなくて
よくわからない彼の言葉に頭がパンクして流れたもの。






「ぷ。」




なのに。



「...ぷ?」




彼はまた





「ぷはははっはははっ!!」



仮面男に戻るんだ。





「....へ?」




「いや、一緒に住んでくれるよね?って言うか、俺が住んであげるよ。」






......わけがわからない。