『で、なんで私に電話かけてきたの?』
お風呂入りたいんですけど、と
目を細めて呆れる里美が頭に浮かぶ。
「ちが...えっとさ。」
何を言おうか考えていたつもりなのに、言葉にしようとすればどう話せばいいのか分からない。
あの時の彼は
悪魔だと思っていたのに
急に私に優しくした。
頭をポンポン優しく撫でた。
少し切なそうな顔をした。
気になって仕方なく
私は彼から逃げ、里美に再度連絡をした模様だ。
『あのさぁ、私、恋愛相談システムじゃないんだよね〜。』
「ご、ごめん。」
『お風呂はいるからさ、出てから話聞くから、それまでちゃんと話し考えときな。ーーーーーね?』
そう言われ、また通話が途切れた。
どうしたらいいのかわからないんだもの。
ーーー彼の話をするってことはどういうことなのか考えろ
そう、最後に行った里美に私はなんて言ったらいいのだろう。
「いねこ!!!ちょっときて!」
トイレに駆け込んで、得体の知れない仮面男から逃げた私をまんまと見つけ出した母に呼び出され
私は渋々ドアを開けた。
ーーーーっ。
「うん。どうして逃げたのかな?家で逃げ回ってもだいたい逃げる場所は一緒だよ。バカはね?」
ドアを開けるとそこには
困ったように電話をしている母と
私に耳打ちで卑怯なことを言う山崎龍斗くんがいた。
たじりもどり
私はゆっくり戸を閉め始める。
「ちょっおおおおと。いねこったらーもう恥ずかしいわねー。いいから出てきなさいよ!」
受話器に耳を当てながら、私の腕を強引に掴むお母さんに私は根負け。
「.......なに?」
半ば涙目になりながら
気持ち悪いニタニタ顏を従兄弟と
お母さんを交互に睨む。
「大変なの!龍斗くんねー」
どうしましょーと
私に言っているのか、でんわのむこうのひとにいっているのか
はっきりしないお母さん。
「.....あのさぁ、誰と話してるの?」
お母さんに掴まれた腕を振り解くと私は問いただす。
「ーーーうん。無理だよねぇ〜うん。うん....ぇーもうお父さんったら〜。どうにかしてよー
ーーーあっ!そうそう、稲子。続きなんだけど...」
どうやら、電話の相手はお父さんで、何やら深刻な話をしている様子。
ハァ〜とため息をつき、お母さんに声をかけようとした時、
「俺が話しますんで、叔父さんと話し続けてください。いこ?いねこちゃん?」
偽爽やか笑顔の彼に、私は体ごと持ってかれる。
「あら〜お願いね〜」
手を小さくフリフリしたお母さんはすぐに受話器と向き合ってこっちなんてもうすでに見ていない。
「離してください」
「やーだ」
「どこに連れて行くんですか?っていうか......」
自分で歩けます
と、私を引きずる彼の腕をはがした。
「秘密っ」
ハートと、気持ち悪く付け加えた後、彼は廊下をどんどん突き進んだ
私は、どうにもこうすることもなく、お母さんが話そうとしていたことを聞くために彼の後をついていく。