俺は、静かにオムライスを食べた。
 このおいしさが少しでも続くようにゆっくりと食べた。

「ごちそうさまでした」

 俺が食べ終わった頃、橘さんも食べ終わった。
 たぶん、俺が食べるペースに合わせてくれたのだと思う。

「ありがとうございました」

 橘さんは、突然お礼を言った。

「え?」

「こんなにおいしそうに食べてくれた人って初めてだから……」

「そうなんですか?
 こんなに美味しいのに……」

「そんな事ないですよ……」

「俺って両親が共働きだったから、食事は、ほとんどコンビニ弁当だったんですよ」

「そうなんですか?」

「はい……
 流石に独り暮らしを始めてからは自炊もするようになりましたが……」

「じゃ、料理とかも出来るのですか?」

「簡単なのだけですけどね」

「そうですか。
 じゃ、今度は、持内さんが作って下さいね」

「え?」

「持内さんが作る料理食べてみたいです。」

 本気かな?

「いいですけど……
 味の保証はしませんよ??」

「そんな事言ったら、私の料理だって一緒ですよ」

「いや、橘さんの料理の味は俺が保証します」

「ありがとうございます」

 橘さんはそう言うと、にっこりと笑った。

 また、会話が止まった。
 永遠に続く会話ってどうすればできるのだろう?

 俺は、会話が下手だ。
 よくよく考えれば、女の人と話すときは、女の人が話の主導権を持って居る事が多い。
 笹山さんのときもそうだった。
 あの人の場合、話すことが好きっぽいので、そこが俺とは相性が良かったのかも知れない。

「ワインは飲まれますか?」

「え?」

「私の家のの地下にワインセラーがあるんです。
 美味しいの持ってきますね」

 橘さんは、そう言うと席を立った。

 一人部屋の中に残される。

 こういう時の時間って、ゆっくりと流れる……
 そうゆっくりと……

 そして、時間は流れ、それから1時間が過ぎようとしていた。
 遅い……
 遅すぎる。
 何かあったのかもしれない。
 俺は、そう思うと席を立った。