今の俺は、政治について考えている場合じゃなかった。

 今、橘さんの家にいる。
 両親は、今はいない。

 二人っきり……

 フライパンでチキンライスを炒める音。
 ほのかに香るデミグラスソース
 政治の事なんか、考えている場合じゃない……
 政治のことよりも今食べるご飯のほうが心配だ。

 横目で、橘さんの姿を見てみた。
 エプロン姿で、慣れた手つきで料理を作っていく……
 笹山さんと一緒に居た時も、ドキドキはしたけれど……
 そのドキドキとは違う、ドキドキが俺を襲った。

 一度気になりだしたらもう止まらない。
 テレビの内容なんて頭の中に入ってこない。

 橘さんが、俺のために料理を作ってくれる……
 去年までの俺には、想像できない光景だった。

 俺、緊張している。

 橘さんが、包丁でキャベツを切っている。
 橘さんが、チキンライスを炒めている。
 橘さんが、橘さんが、橘さんが…

 ここまで来ると、少し怖いな……
 俺は、自分でも解っている……
 モテナイ男が、誰かを好きになるってことは、その誰かに迷惑をかけると言うこと。

 今までも、何もしていないけど怖がられている事が多々あった。

 だから、クールダウンしなくちゃ。
 だから、少しでも冷静にならなくちゃ……

「できましたよー」

 橘さんが、笑顔で俺を呼ぶ。

 俺の鼓動は早くなる。

 食卓に呼ばれた俺は、綺麗に並べられた食事に見とれる。

 女の子の手料理…
 胸の鼓動が高くなる。

「いただきます」

 俺は、オムライスを一口、口に含む。
 おいしい……
 そして、その俺の姿を真剣な目で見つめる橘さん…
 かわいい……

「美味しいですか?」

「ものすごく美味しいです」

 俺が、おいしいと言うと橘さんは、ほっとしたような顔をして自分も一口食べた。
 卵にもキチンと味付けされていて、クリーミ
 チキンライスもご飯とケチャップの分量もバッチしで……
 貝のチキンとグリンピースの割合も、俺的にはバッチしだった。

「こんなに美味しいオムライス初めてかも知れません」

「そんな、大げさですよ……」

「いや、そんな事ないです……」

 橘さんを振った婚約者は、絶対に後悔すると思う。
 だって、こんなに美味しい料理を作れる人を振ったのだから……