結局、俺は猫のコップを買い橘さんは犬のコップを買った。
 その後、オムライスの材料を買った。

「いい買い物しましたね」

 橘さんは、ニッコリと笑顔で答える。
 さっきまでは、泣いていたのに今はもう笑顔だ。
 女の子って不思議だ。

「そうですね」

 俺はそう返す。
 橘さんは、鼻歌を歌いながら俺の隣を歩く……
 橘さんは、ゆっくり歩くので、合わせるのが大変。

 俺は、ゆっくり、ゆっくり、俺は足を歩める。

 家までの10分間、俺達は無言で歩いた。
 何を話せばいいのかがわからなかった。

 マンションの部屋に入ると、橘さんは、自分の鞄からエプロンを取り出した。

「エプロン持ってきたのですか?」

 俺が、そう尋ねると橘さんはクスリと笑った。

「今日は、こうなる気がしたんです」

「…え?」

「じゃ、今からちゃっちゃっと作っちゃいますね?」

 時計を見ると、もう18時を過ぎていた。

「そう言えば、お腹すいてる…」

「今まで、気付かなかったんですか?」

「あはは…
 楽しくてそれどころじゃ、なかったです」

 あ、言っちゃった…
 でも、楽しかったのは本当。
 時間なんて、あっと言う間。

 橘さんは、微笑みながらキッチンに向かった。
 そして、なぜかキッチンで固まっている。

「持内さん…」

「あ、何でしょう?」

「調理器具って…」

「あ…」

 すっかり忘れていた。
 引越しの荷物は明日届くんだった。

「たぶん、明日届きます…」

 橘さんは、クスリと笑う。

「そういえば荷物とかないね」

「ごめんなさい……」

 俺は、謝るしかできなかった。