橘さんは、何も答えない。
 ただ、俺の顔を見つめていた。

 あ、もしかして怖かったかな?
 そりゃ、怖いよね。
 いきなり男の部屋に連れて来られたんだもん
 怖がらない女はいないさ。

「るるるるる」

 橘さんは、突然鼻歌を歌いだした。
 女って、やっぱわかんない。
 いや、わかんないじゃない。
 わかろうとしないんだ…

 何か話さなきゃ……
 何か話さなきゃ……

「あの、すみません…
 急にこんな場所に連れてきてしまって……」

「こんな所に連れてきてどうするつもりですかぁー」

 橘さんは、そう言うとにっこりと笑った。
 その笑顔が怖い。

「どうしましょう??」

 聞いてどうするんだ俺……

「取りあえず、近くのスーパーに行きませんか?」

「え?」

「電気とかガス、水道は通ってますよね?」

「あ、はい」

「じゃ、晩御飯作ってあげます」

「え?」

「私、料理には自信ありますよ」

「あ、ありがとうございます」

 よく、わかんないけど……
 料理を作ってもらうことになった。

「じゃ、行きましょう」

 橘さんは、そう言うと俺の手を引っ張った。