やがてメドレーは終わりに差しかかる。観客は最高の盛り上がりを見せており、五人の気分も最高潮に違いないだろう。Setsunaのギターに負けないように歌声が重なると、五重奏が再び会場を支配した。




潮風香る その度に
君との約束思い出す
僕らの小さな約束は
海にも負けず 光り輝く





 観客の脳裏に浮かぶのは、それぞれが思い描く“いつかの夏”だ。思い出を最も鮮明に蘇らせるのは嗅覚だと言われているが、聴覚にもその効果はある。街で流れた一曲に、青春時代がフッと蘇ったという経験をした人も居る筈だ。それはやはり、“歌には不思議な力がある”ということなのだろう。

 ギターのストロークが軽やかなリズムを刻み、それに合わせて四人が舞い踊る。真夏のカラッとした空気を満喫するように目を細めて息を吸ったSetsunaが、最後の歌詞を歌い上げた。





僕らが誓ったあの夢は
広い空にも負けずに青いよ





 アルペジオが余韻を残して消えていけば、数秒間の空白の後に大きな拍手が五人を包む。一足早い夏が訪れた会場内に響くファン達の歓声が、空気までも夏に染めている。“今年の夏は暑くなりそうね”。硝子は心中で、そう呟いた。