Setsunaが位置に着くと、初めから片手が塞がっていたKazami以外の三人がポケットからマイクを取り出す。Setsunaはヘッドセット(イヤホンにマイクが付いたもの)に切り替えており、時々メンバーや客達に視線を走らせながらギターを弾いている。

 この『青い約束』ではSetsunaがメインボーカルを務めるようだ。深呼吸した彼は先程とは違う低い、しかし清澄な声で歌い始める。ファンは勿論、他のアーティスト目当てで来た観客も思わず耳を傾けていた。





強い日差しに気付いたら
夏はもう そこまで来ていた
サンダル脱いだら駆け出そう
君が指差す 海へ向かって





 大切なサビ部分。Setsunaが緩やかにメンバー達を見回す。タイミングを計るようにSetsunaのギターが歌う。間もなく、マイクを持った四人がその手を口元へやる。新たなハーモニーが生まれる瞬間の到来だった。





光る波間が見えたなら
風を切って 走り出そうよ
僕らが走る砂浜は
波にも負けず 白く輝く





 観客が目を真ん丸くしている。五人の歌声が重なったのは、これが初めてなのだ。それぞれの特徴は違っても、揃えば一つの“音”となり“声”となる。彼らの声が、ファン達を眩(ま)わせた。