「つーか、雪那はボーカル向きだよな。よく考えたら歌上手かったし!ギターにしとくの惜しいな……」



 腕組みをしながら、耀人が静かに言う。文化祭のバンド演奏では、これまで先輩グループに混じってやってきた六人。侑の力強いボーカルはなかなかの高評価を得ているが、いくら迫力があっても素人と玄人の差は歴然だと、耀人は言いたいのだろう。雪那の才能を見抜けなかった自分はまだまだだ、と。



「ちょっと!それってウチがボーカルじゃダメみたいじゃん!!」



 侑が耀人をジロリと睨む。自分のポジションに誇りを持たない者は滅多に居ないので、当然のことだろう。二人の会話の直後。雪那が氷点下の声を発した。



「……耀人。侑には侑にしかない良さがあるからボーカルに決まったんでしょ?人と比べるなんて絶対間違ってるよ!」

「いや、えっと……」



 雪那の目付きに耀人はたじろぐ。はっきりと意見を言う姿は何度も目にしたが、こんなに恐ろしい声と表情を向けられたことはなかったからだ。

 怯える彼を見た雪那は、慌てて「あっ……ごめん!」と謝った。オーディションの時の高校生を思い出し、ついカッとなってしまったのだろう。