先輩は特に顔色を変えることもなく、ゆっくり2回瞬きをした。
男の人にしては長い睫毛が、彼の泣きぼくろを掠る。


「まずは、座ったら」

まるで大人なその言い方に、純平が更に少しイラついたのを感じた。


「この時間、奥の方が陽が当たるから」

先輩がそう言った時には明らかに視線がボクを捉えていて、寒がりなボクを、そこへ誘導しようとしているのが分かってしまう。
左側の机の奥にいる先輩、その隣にあたる、奥側の机の、向かって一番左端に。


でもボクが躊躇う前に、先輩は席を立った。


「いつもはもう2、3人いるけど。来週いっぱいまでは、君たちを避難させるってことで、空けてもらったよ」

そう言いながら、左の壁際に鎮座する古びたソファの上にあったカバンに手を伸ばす。
そこから財布を抜き取ると、ボクの目を見て何かを言いかけた。


「な……」