突然奪われた視界を埋め尽くしているのは、先輩のシャツの色だった。
抱き寄せられたのだと気付いたのは、その3秒後。


そっと顔を上げたら、先輩は慌ててボクを解放した。

もったいない。
もうちょっとだけ、抱きしめられていたかったのに。


「ご、め……ッ! つい、あ――いや」

しどろもどろに言い訳しようとする先輩に、ボクは耐え切れなくなって吹き出した。


「ねえ先輩、引っ越しいつ?」

……その言葉に、冷たい現実に引き戻されたみたいに先輩の表情が沈んでいく。


遠く、離れていってしまうあなたは。
ボクのこと、すぐに忘れてしまいますか?