何かを失うことを怖がって身を竦めている内は、何かを手に入れることなど、きっと出来ない。


「ねえ、母さん。ボクがボクじゃなくなったら、変かな」

「何よ、いきなり? どう変わろうが、あんたはあんたよ」


週末の午後の、穏やかなティータイムだった。

……否、そんな気品に満ちたものじゃないか。
バリバリと音を立ててせんべいをかじりながら緑茶をすする。

母さんの片手にはテレビのリモコン、ボクの片手には少年漫画だ。


突然切り出したボクの質問を、母さんは鼻で笑った。