「もう、いいんだ」

驚くほど低い声が、自分の口から漏れ出た。
重いはずの足取りは、2人の視界から一刻も早く消えたいと言うボクの意思を汲んで、意識しなくとも勝手にどんどん速くなった。

純平は、今度は追ってこなかった。


――高校2年の春の初め。
天気のいい、風だけがやたら強い日だった。


ボクと美紗と純平が一緒に登校するために朝3人で待ち合わせたのは、その日が最後だ。
小学校入学から続いていた習慣は、なんの言葉もなく、唐突に消えてなくなった。


習慣、だけではなく――、ボクは、友達も、居場所も、同時にすべて失ったのかもしれない。
どこかでたったひとつでも選択が違えば、ひとつくらいは手元に残ったかもしれないのに。