「おはよう、なお」

「おう、おせーじゃんか今日」


通学路のいつもの合流地点に、何事もなかったかのように2人は立っていた。
2人の距離感も、ボクへの態度も、いつも通りに。


ああ、よくよく考えれば、2人にとっては【何事もなかった】のだ。
2人はボクが見ていたことを知らない。


美紗が泣いたら純平が慰めるのも、ボクの知らないところで美紗が純平を頼るのも、純平が美紗を抱きしめるのも――もしかしたら、昨日までボクが知らなかっただけ?
2人にとっては、それも【何事もなかった】になるのかな。


「オイなお、昨日どうした?」

「部室棟行ったんだけど、2人共いなかったから……帰った」


ウソついた。
この2人に嘘を吐くのは初めてだけど、思っていたほど心が痛まない。
ただ、少しだけ渇いた。
ヒリヒリするようなこの感覚がなんなのか、自分でもよく分からない。