母さんの手が止まった。

肩幅に足を開いたまま、腕組みして、目を閉じて眉を寄せて、首を30度ほど上に傾けて。
うーん、と小さな声を出しながら考え中の母を、観察する。

思い出せないほど、泣かなかったのか?
まあ、自分で思い出せないから聞いたのだけど。


「そりゃあ、泣いてたわよ昔は」


意外な答えが返ってきたのは、観察するのにも飽きてスープに手を付けた後だった。

どうやら泣いたことがないわけではないらしい。
って、さすがに赤ん坊の時の話じゃないよな?


「あんたが泣かなくなったのは、幼稚園に入ってすぐくらいだったかね。ホラ、純平君? あの子に、『男は人前で泣くもんじゃない』みたいなことを吹き込まれて」


……純平に。
つーか、『男は』?

「あんた、女なのにねぇ」

カラカラと母が笑った。
ボクも、つられるように笑った。

何が可笑しいのか分からない。
それなのに、何故か、笑えた。