「なんだか、……ごめんね? やっぱり家じゃない方が良かった?」

部屋に入るなり、先輩は苦笑いを浮かべながらそう言った。
母さんがあんなに食いついて反応してくるとは思ってなかったんだろう。


「や、それは全然いいんですけど」

別にこうなることが予想できなかったワケじゃない(母がうるさいのは確かに迷惑だが)。


ただもし勉強場所に学校や図書館を選択したら、そこで美紗や純平とかち合う可能性を危惧しただけ。
ここなら会わずに済むという、姑息な考えだ。


「むしろ変にはしゃいじゃって、母さんが……。なんか、すみません」

いいよ、と、響先輩はふわっと柔らかい微笑みを浮かべる。

学校に行かなかったからなのか、いつもより少しだけラフな格好の彼は今日はネクタイをしていなかった。

唯一の防寒着である薄手のマフラーを外すと露わになった、Tシャツにコットン素材のカーディガンを羽織っただけのシンプルなモノトーンでまとまった服装。
ちょっとだけ新鮮味を感じる。