その柔和な笑いと礼儀正しい挨拶が、母さんの先輩に対する好感度を上げないわけがない。

おまけに彼は、手土産にケーキか何かの箱をぶら下げていた。
ボクと目が合うとその箱を少し持ち上げて、

「これ、休憩に食べよう。4つ入ってるから、その――……」

一瞬言葉を濁した彼は、もう一度母に向き直る。


「おかあさんの分も。……良かったら」

「まっ!」

大げさに両手で口元を隠しながら、母が嬉しそうな声を出す。

……喜んでるのは、ケーキ、だよね?
まさか、まさかだけど、『おかあさん』て呼ばれたコトじゃ……ないよね、母さん。


はしゃいだ母さんが余計なことをしゃべりだす前に、先輩の手から箱を受け取って「冷蔵庫入れといて!」と母に押し付ける。

先輩に向けてお礼だか歓迎だか感激だかもよく分からない言葉を早口に捲し立てる母を何とかかわして、ボクは先輩を急かして部屋に逃げ込んだ。