先輩との距離が近すぎて、息が詰まったから。
ボクは逃げるようにして、部室棟の裏に向かった。


部室棟の壁に沿って端まで歩き、角を曲がる。
ようやく先輩の視線から解放されたところで、大きく息を吸って、吐き出して、そこでやっと緊張から解放されたのに気が付いた。


……何、息潜めてたんだ、ボクは。


先輩から逃げることだけを考えていたボクは、まあ、結論から言えば。

少しだけ、いや、かなり。
無防備だったと思う。


立ち止まって目を閉じ、もう一度深呼吸した、その時、

「……ッ」

部室棟の裏側から聞こえてきたその声は、間違いなく美紗のモノだった。


待っててくれたんだ、という安堵よりも、やっと合流できる、という安心感よりも、一瞬にして焦燥感が募ったのは何故か。


――その声が、すすり泣いてるように聞こえたからだ!