ボクが軽く頭を下げると、先輩は安堵のため息を吐いた。


「ありがとう」

と言われたけれど、お礼を言うのはこっちの方なのにな。
それから彼は、

「本当はこんな風に」

と小さな小さな声で独り言のように続けた。


「弱みに付け込むみたいに近づくのは不本意なんだけど――……」


その語尾が沈黙に消えていった。

不意に訪れたあまりにも静かな空間で、ボクは自分の鼓動が、……いつもより少し早いことを知る。


「明日の放課後と土日。あとはテストが始まっちゃうから一夜漬けに近くなっちゃうけど、頑張ろうね」

と、漏らした本音と沈黙を打ち消すように、先輩が笑った。