「岸本?何やってたんだ」

教壇から社会科教師の声がそう呼びかけ、クラス中の視線が集まるのを感じる。


そうか、5限は歴史だったか。
理系科目じゃなくて良かった、歴史ならノートさえ手に入れれば何とかなる。

テスト前であることを思い出し、不思議と少しだけ気が紛れた。


「……腹、痛くて、保健室に」

顔を上げたら、美紗と目が合うかもしれない。
俯いたまま口から出まかせを言う。

「大丈夫か?それならそうと、事前に誰かに言っとけ」


保健室のお姉ちゃん先生に確認されたら嘘がバレるけど、まあいいや。
あのお姉ちゃん先生なら、上手く話を合わせてくれるかも知れない。
『教室にいるのが嫌で登校拒否になるくらいなら、保健室で堂々とサボりなさい』と公言するような人だから。