虚ろな頭にふと浮かんだのは、コートのポケットに入れっぱなしのヤクザ顔のクマだった。

出番かもしれない。
とても、ボクが渡せるような立場ではないけど。


ホワイトボードの奥から、椅子を引きずったような音に続いて声がする。


「純平? なお、まだそこに――……」

声が段々近づいて、途切れた。


「何、して」

響先輩のその言葉で、ようやく自分たちの体勢に気が付いた。
純平が後ろから抱きついてきたみたいな、おかしな格好だ。


足に力を入れて、寄りかかっていた身体を純平から離す。

逆に力を失ったのは純平の方で、ボクの腰を支えていたはずの片手がだらりと落ちて揺れた。