「ごめんね、なお。――分かってるから」

――分かってるって、何を?


4歩、5歩、

美紗はゆっくり遠ざかっていく。


「嫌いに、ならないで」


嫌いだったことを、わざわざ思い出させてから告白してきたクセに。


「じゃ、あ」


歯切れの悪い別れの言葉を最後に紡いで、美紗はパタパタと廊下を走って去っていった。

いつもみたいなヒールの音は、鳴らなかった。