それから先輩はゆっくりとクッキーを1枚つまみあげ、大事に口に運んで、十分に咀嚼してから飲み込んだ。
余韻まで味わうようにたっぷりと時間をかけてから

「美味しい」

と破顔した先輩から、ボクは慌てて目を逸らした。
ちょっと……眩しすぎて。


美紗はその後先輩からひったくるように箱をもぎ取り、彼女もまた、ボクのクッキーを食べてベタ褒めしてくれた。

ここまで来ると、むしろ、痒い。


ようやく箱が中央に戻ってきて、ここまで食べ損ねている自分もこれでやっと食べれる、と手を伸ばしかけて、気付いた(大分遅いけど)。

純平が、まだ食べてない。


「純平?」


思わず声をかけて顔を見てしまってから、ハッとする。
純平はやっぱり、美紗のチョコレートしか受け取る気がないんじゃないか、と。


……『絶対全員分用意しろよ』って、自分で言ったくせに。