それは……『ギリギリまで期待していたい』から?

邪推かもしれない。
彼は優しい人だから、困っている人を見たら、相手が誰でもこう言うのかもしれない。


「……ボクの、ボクたちの先生は、美紗なんです」


暗に断った、つもり。

だけど果たして、美紗はこれからもボクの先生でいてくれるのだろうか。
あの2人がどうにかなって戻ってくるのなら、ボクはこれから先、邪魔者でしかない。


「……美紗が学校休んでた時期があって、その間の物理だけがどうしようもないって」

昨日のやり取りを思い出したのか、『物理』という言葉に先輩は「ああ」と相槌を打つ。

「だから出来たら物理を……【美紗に】教えてもらえると、助かるかも」


言いながら、我ながらなんて図々しいと気付く。
いや、初めから気付いていて、そう言った。

期待はしないで欲しいから。
断ることを禁じられたボクの、これが精いっぱいの誠意だ。


「……うん」

と、響先輩は歯切れの悪い返事と共に頷いた。
言葉に込めた気持ちが、伝わったのかどうかはよく分からなかった。