『ミサーッ!!』

脳裏に響いたのは、まだ声変りをする前の、幼い純平の声。

『ナオ! ミサをまもれ!』


……あの時、タイヤの恐竜の尻尾あたりに、小さな彼女は追い詰められていた。


――イヤだ……ッ! ボクだってコワい……!――


何故そんなことになったのか、ボクには分からない。
それが忘れてしまったからなのか、元々知らなかったからなのかも今のボクには分からなかった。

あの時のボクは、ただただ怖かった。
美紗を追いつめている、手に何か棒みたいな物を持った、ボクたちよりずっと大きな男たちが。


大きいと感じたのはボクらが小さかったからってだけで、もしかしたらその男たちは、小学生高学年くらいの悪ガキ連中だったのかもしれない。
いい大人が幼稚園児を囲むなんて、今冷静に考えればおかしな話だ。


大きな男たちが、美紗を、ボクらを取り囲んで、――殺そうとしてる。


現実がどうだったのかなど分からない。
けどそれが、あの時のボクが見た恐怖だった。