「ちょっと練習させてよ」

そう言って美紗のレシピを見せると、母は「あらま」と間抜けな声を発した。

「上手に出来てたじゃない」

……その後に続いた「意外と」という言葉は、我が家の平和のために聞こえなかったことにしてやろう。


昨日夕飯の後、家族であのクッキーを摘まんだ。

母さんはボクがお菓子を作ったということに少しだけ感動したようだけど、父さんは気味悪がって渋々一枚だけ口にしていた。
そしてその感想はというと、2人そろって『【意外と】美味しい』だった。


――その【意外と】をなくしてやりたい。
そんな、些細な意地がある。


けど、装備も整っていない、助言者もいない完全1人の戦いで、昨日と同じ結果を出す自信すらないという弱気が本音だ。


今日という休日を【練習日】に充てるボクは、我ながら、なかなか真面目で良い生徒だと思う。