「あのさ」

ボクが声をかけると、相変わらずきょとんとした顔のまま、美紗は小首を傾げ先を促した。


「美紗、響先輩にチョコあげるの?」

え? と、美紗は焦ったような困ったような情けない顔に変わっていった。


「なおは、あげないつもりだったの?」

「え、ボクも先輩にあげるの?」

「違うの?」

「……そうなんだ?」


噛み合わない会話に2人同時にプッと吹き出したら、ふるいにかけたばかりの粉がぶわっと舞い上がった。


「ひゃあっ!大変!」

美紗が慌てて飛び散った粉を拭き取るのを見ながら、ボクはただ安堵していた。


美紗のチョコレートが、純平だけのものじゃなくなったことに。