レシピを確認したら、惚れ薬の正体は『バニラエッセンス』と『ペーキングパウダー』だった。

材料を揃えるのにこれを買わなくちゃいけないわけだ。
たった一滴、ひとつまみしか使わないのに。


「惚れ薬なら、入れなくていっか」

眉を寄せて「ちょっと」と一瞬顔をしかめた美紗は、

「まあ、確かになくても出来るけど」

結局、正直にバラした。


「出来栄えは落ちるけどね」

なんて今さら付け足されても、もう遅い。
惚れ薬は不要、と、ボクは頭の中で、美紗のレシピを書き換えた。


「ちょっとくらい。グルメじゃないから違い分かんないでしょどうせ」

――純平は。


続けるつもりだった言葉が、何故か出てこなかった。