キッチンカウンターに転々と飛び散ったチョコレートはまるで、TVドラマで見る殺人現場に残された血痕のようだった。
返り血を浴びた殺人犯のごとく、ボクが着用中の借り物のエプロンも激しくチョコまみれ。


一日二日経った血の色だ。
どうやら遺体発見が少々遅れたらしい。
間抜けな犯人は逃げ遅れ、現場でぼーっとしているところを逮捕された。
めでたしめでたし。

……じゃねえよ!!

酷い光景に、現実逃避もしたくなる。


混り気のないはずのチョコは何故かマーブル模様で、ところどころブツブツとしたダマがあり、いくら冷やしても部分的に柔らかいままで固まろうとしてくれない。
隣でお手本としてまったく同じ作業をしたはずの美紗のカップチョコの表面は、真っ平で艶々に輝いているのに。


ボクは絶望的かつ壊滅的に、チョコレートの扱いが下手だった。