冷めちゃったんですけど、と缶コーヒーを差し出すと、椅子に座って上半身だけで振り返っていた先輩は、その状態のまま固まった。


あ、もしかして、お腹のポケットから落としたとこ見てたかな。
いよいよこれは、常識はずれと思われているのかもしれない。


「いや、やっぱりお金払います。これ冷めちゃったし、落としちゃったし」

「いや!いい、それで!ありがとう」

慌てたようにボクを遮って、先輩はもぎ取るように缶コーヒーを受け取った。
……一体何をそんなに焦って……。

いいんだろうか、とも思ったが、本人がいいって言うんだから(ほんとに欲しそうにもぎ取ってきたし)、まあいいんだろう。


挙動不審な先輩を横目に席に着く間際、視界の端で、純平がプッと小さく笑い、それを美紗がチロッと睨んでいた。