「おー、久しぶりだなコレ! 向こうにないんだよこの店」

と、湯気の立つボンゴレを前にして亮は顔を綻ばせた。

この辺りでは近くに何店舗もあるチェーンのレストランだから、当然全国展開なのだと思い込んでいた。
『向こうにない』と亮が自然に発した言葉が、今の彼の生活圏と自分がいる世界との距離をますます遠く感じさせる。

亮がボンゴレのソースをみのりに差し出すことは勿論なかった。


食事中の他愛もない雑談に交えて、今彼がどんな生活をしているのかを聞きたかった。
彼のことならば余さずに知っておきたい、と、みのりは今でもそう感じてしまう。

だが今さらみのりが彼のことを知りたがっても、向こうは不快に思うかもしれない。
逆に聞き返された時にも困る。
亮に話せるような生活を送って来なかった自分が恥ずかしい。

あわよくば亮の方から、自分の話を始めてくれないか――、そんな都合の良いことを考えながら、みのりは黙々とパスタを口に運んでいた。