ちょうど料理が運ばれてきて、玲奈の家に関する話は一旦中断された。


亮が頼んだボンゴレビアンコからは、磯の香りがたっている。
懐かしかった。
彼はこの店に来ると、決まってこれを頼んだ。
みのりも好きなメニューだが、貝を綺麗に食べる自信がなくて亮の前で頼んだことはない。
トマトソースもクリームソースも口の周りに付いたらと思うと恥ずかしくて、みのりが選ぶのは大抵ペペロンチーノだった。

亮はそんなみのりの気持ちを分かっていたのかもしれない。
付き合っていた頃は料理が出てくるとまず最初に、スプーンで一口分のソースを掬ってみのりに差し出してくれたものだ。
あさりの風味が溶け出た白ワインのソースがいつも格別に美味しく感じていたのは、亮の手からもらうからだったろうか。