こぶチャンが、テーブルを挟んでアタシの前に座る。

ウェイターがお酒のセットを持ってきた。


まだまだ危なっかしい手付きで、アタシがリクエストした鏡月のアセロラ割りを作る。

まあまあ、まだ慣れてないがそのうち完璧に出来るようになるだろ…



うん、まぁ…

温かい目で見守るのがいい…



そう、温かい目でね…




……!?!?



てか、やっぱり無理!!
温かい目でなんて見てられない!!

だってマドラーが逆だよ、あんた!!

確かにここのマドラーは黒の上下わかり辛いけども…

よく見てくれ!
上の方はちゃんと少しだけ形が違うでしょ!

しかも、お酒作ってる間は真剣なのか…無言。


こ、こいつ…ハハハ…前途多難です。


指導者…誰?


しっかりとした人、この店はいないの??
新人教育はどうなってる??


「あんたさ、酒飲めないの?」

『えっ?』

やっと、こぶチャンがこっちを見た。
ずっと鏡月とアセロラとの戦いで、アタシが客のことを忘れてるかと思ったよ。



「酒作りながら無言。不器用過ぎる…。」

『あ、あ、ごめん!』

何故か慌てて立ち上がり、ゴンッと音と共に、せっかく作ったアセロラ割りは見事にテーブルにぶちまかれた。

こぶチャンは膝を押さえて悶絶しながら、ペコペコ謝っている。


無理だ……。






面白すぎる……。

アタシは思い切し笑い転げた。

だって我慢できない…面白すぎた。


受付兼ウェイターの人がおしぼりを沢山持ってきて、慌てて拭きに来た。

『申し訳ありません!!濡れてませんか?大丈夫ですか?』

「あぁ、大丈夫、プッ、アハハハハ。」


そんなこんなで、テーブルの上も元通り乾き、アタシは自分でアセロラ割りを作った。


『なんか、ゴメン。オレ、酒最近飲めるようになったからさ、ゴメン。』


な、な、なに、この雰囲気……。

ダメダメ!

盛り上げなきゃさぁ。

仮にもホストでしょ?


アタシの笑いのツボスイッチがようやくオフになった頃、どよ~んとした雰囲気を作るこぶチャンの隣に金髪のスゲーチャラ男がやってきた。


『ハロー!!失礼するよぉ』

いやいや、本当に初対面で失礼な感じですが?

『オレの名前はユウタ!よろしくしくしくドッピューン!出ちゃった、アハハハ。はい、名刺。捨てないでくれよ!』


あぁ、マジ、うざいです……。