「で、皆藤」
「……なんだよ」
「いいの?」
「なにがだよ」
「なにがって、ほら、時間」


 私は教室の前の方にある時計を指差す。授業はとっくに終わり、放課後。「少年団でしょ」「早く言え馬鹿!」何で私が怒られるんだよ。文句を言おうとして「あだっ」慌てた皆藤が机に足をぶつけるのを見た。


 皆藤は剣道をやっている。
 剣道着姿の皆藤を、私は見たことがある。試合があると聞いたとき、見に行ったのだ。面に、竹刀。皆藤の文字。試合前に「かっとばせ」といったら、「それお前、野球だろ」と笑われた。今思うと、確かに野球だなと思う。


 皆藤は慌ただしく教室の出入り口へ向かう。足痛くなかったのかな、と笑いをこらえながら私は見ていた。

 皆藤はそのまま、教室を駆け足状態で出ていった。声をかけた方がよかっただろうか。でも、タイミングなかったし。
 私はさて、とあくびがでた。部活といっても、私はほぼ気まぐれで、部室でよりも自宅のほうがはかどる。絵なんかはとくに。


「いい忘れてたけど」
「わ、なに?」


 少年団にいったと思った皆藤が入り口にいて、私は焦った。


「お前、ブサイクじゃねーよ」
「……は?」
「じゃあな」


 颯爽と今度こそ向かったらしい皆藤に、私は固まった。なにそれ。なに。今の。は?何ていった?ブサイクじゃねーよ?なんだそれ。

 ――――けれど。



  《「じゃあな」じゃねーよ》



 このきゅんとした胸のそれを、どうしてくれるんだ。
 私は教室で一人、甘酸っぱさを含むような痛みを覚えたままそう思う。






15/1/12