怡織と秋那。二人が出会ったのは小学校四年生の頃。学期の変わり目で、怡織の通う学校に秋那が転校してきたのが始まりだった。

 最初、二人のどちらから先に声をかけたのかはもう思い出せないが、秋那は人見知りをする性格だったため、おそらく怡織からなのだろう。そして二人は時の流れに任せるままに気が付くと友達になっていた。

 二人は仲が良かったが、唯一異なる点といえば怡織は天真爛漫な性格なのに対して、秋那は物静かな性格だったということ。

 そして二人は同じクラスであるにも関わらず、放課になっても外で一緒に遊ぶということはほとんどなかった。学校の運動場を教室の窓から見下ろす秋那の姿を、怡織は何度も目にしたことがある。

 無論、怡織も何度か秋那を外に誘ったことはあったが、秋那からは「運動とか苦手だから」とはぐらかされては毎回断られていたものだ。

 そんな秋那には怡織以外に友達がいなかった。内気な秋那に誰も関わろうとはせず、クラスの中でも秋那は孤立した存在だった。

 それでも二人が仲の良い関係を続けていられたのは、お互いの自宅がそれほど遠くない場所に位置していたからであり、そのこともあって二人は毎日登下校を共にしていた。

 そして当時の怡織が一対一で面と向かい合って会話をするのは、誰でもない秋那ただ一人だけだった。

 しかし、それでも怡織は秋那の異変に気付いてはいなかった。

 秋那は次第に学校を休みがちになり、それが何ヶ月も続いた。体調が悪いのかと怡織は聞いたが秋那は何も教えてはくれずに、以降状態が好転するような兆しもなく、それは中学校でも変わらずについには中学校の卒業式の日も秋那は学校に姿を現さなかった。

 卒業式が終わり怡織は帰宅する前に秋那の自宅へ寄ると、そこにはいつもと変わらない秋那がいた。決して元気ともいえないが、秋那は笑顔で怡織を迎えた。

 そして怡織が卒業証書などを渡し終えると、秋那は突然切り出す。

 天性の病によって体が蝕まれ続けているということ。内蔵や筋肉が徐々に衰えていき、それと同時に体の成長も後退していく。原因不明で治療法も存在しない。

 この先に自分を待っているのは死だと、秋那は普段と変わりのない口調で淡々と言った。

 それは遠くない未来に訪れる秋那と怡織の別れを示しており、怡織は言葉を失って励ましの言葉も慰めの言葉も、何も出てこなかった。

 だが秋那が自ら病について話をしてくれたということは、少なからず怡織に助けを求めていたということだ。

 しかしそれを知ってもなお、怡織は秋那に何もしてやれることができなかった。何もしてやれない自分を怡織は責めたが、それでも秋那は「大丈夫だよ」と気丈に笑ってみせる。

 怡織が想像している以上の過酷な運命を背負っていた秋那は、しっかりと現実を見据えて強く生きようとしていた。