詩音は一人、部屋のバルコニーにいた。 欄干に腕をかけ、眼下に広がる黒い海を見つめる。 「……何なのよ。みんな、みんな……遺産のことばっか。」 お金が関われば人は変わる。 あんなに優しかった母も、今はただの金に狂う亡者。 優しい母の姿など、今は微塵もない。 そういえば、前に母とこんな話をしたのを思い出す。