店内は客が一人もいなかった。 昔ながらの蓄音機から流れる音楽が静かな店内を包んでいる。 カウンターテーブルと椅子が並んでいて、その向こうの棚には、たくさんの珈琲豆が収納されていた。 「好きなところに座ってろ」 男の言葉にうなずき、詩音は近くにあった椅子に腰を下ろした。 男は棚から珈琲豆が入っているひとつの瓶を取ると、珈琲を作り始めた。