「ねぇ〜、りぃこ!ねぇーってば!」

耳につく甘ったるい声。

男なんだからさ、もう少し

図太い声で呼んでくれないかな?


...なんて言えるわけもなく

「どーしたの?翔?」

「んー...好き!大好き!」

...はぁ。なんだこれ。

用が無いのに呼ばないで。


私の名前は小谷 梨々子。

もうすぐで高校を卒業。

美容専門学校に

進学が決まっている。


祖父がイギリス人、祖母が日本人。

だから私はクウォーター。

染めなくてもほんのり茶色い髪。

カラコンなんてしなくても

十分に茶色い目。

クウォーターだから

チヤホヤされてる!

なんてこともなく、

普通の高校生なんだけどね。



私は基本的にクールな女。


んー、クールとは少し違うかな?

普通に友達と馬鹿なことしたり

いつもニコニコしてるけど

男らしくない男には

とことん冷たい。



私には歳が離れた兄が2人いて

長男の徹は野球、次男の英はラグビー。

スポーツマンな兄を持った私は

男は男らしくなければならない!

そんな教育を受けてきた。

だから、さっきから私の隣で

デレデレベタベタしている

女々しい男なんて大嫌い!


...って言いたいところだが

どこで間違ったか

こいつは私の彼氏。

名前は小佐々 翔。


友達の彼氏の友達。

まぁ、よくある話だよね。

翔はこー見えてラグビーの国体選手。

ジャパンにも選ばれている。

身長も185cmあるし

体格もすごく恵まれている。

垂れ目で鼻筋が通っていて

薄い唇でシャープな顎。

世間ではイケメンと呼ばれる部類。

友達の彼氏の試合を見に行って

翔を見つけた時は

"やっと出会えた私の王子様"

なんて思っちゃって

試合終わってすぐに

私から告白。

最初はビックリしていた翔だったけど

顔真っ赤にして

「いいよ」

って返事をくれた。

その時は私も舞い上がって

こんな王子様と付き合えた!

なんて思っていたけど...



最初は男らしくて

私の理想の王子様だったのに

二カ月経った頃には

ボロボロと本性が出てきて

今ではこの有様。


嘘だろ!おい!詐欺だよ!


って最初は思ったけど

自分から告白した手前、

文句なんて言えない。

そんな感じで早2年。

もう、慣れました。

「りーこ!りーこ!りーこ!」

「なに?どうした?」

「さっきから何見てるの?
俺にもかまってよー!」

「あー...ごめんごめん!
春から行く学校の同級生の
ブログ見てた!
やっぱり行く前から
友達見つけとかないと!ね?」

「うーん。男?」

「違うよ。女の子!ほら!」

私は見ていたブログを翔に見せる。

携帯を奪い取った翔は

安心した顔をしている。

「たくさん友達出来たらいいね!」

一丁前に嫉妬なんてするから

これまた面倒くさい。



「...あっ。かわいー!この子!」

翔が珍しく私以外の子を

可愛いと言っている。

まぁ、嫉妬なんて私はしないけどね。

「ほらほら!見てよ!りーこ!」

私の目の前に携帯を突きつける。

いや、近すぎて目がチカチカする。

「翔。近いよ。目が痛い。」

翔から携帯を奪い取る。

「あ。本当だ。かわいー!」


携帯に笑顔で写っている女の子。

少し明るめの髪の毛に

フワフワパーマ。

天真爛漫な笑顔でピースをしている。

「あ!この子も同じ学校だ!
仲良くなれたらいいなー。」

私も翔もこの子に一目惚れ。


「でも、やっぱり!
俺はりーこが一番可愛いと思うよ!」

真顔でこんな事をいう翔。

これには少し照れてしまう。

「...ん。どーも。」

「りーこ?顔赤いけど?」

分かってるよ!

顔が熱いよ!


そんなことを思いながら

うつむく私。口では言えない。


「もー、本当に可愛いなぁ。
りーこ?おいで?」

顔を覗き込んでくる。

「誰のせいだと思ってのよ、馬鹿。」

「俺のせいでーす。
だから、責任とるよ。」


そういって翔は

私に甘いキスを落とす。


ズルい。いつもそうだ。

翔は本当に甘い。

虫歯が出来そうなくらい甘い。


嫌だって言っている私だけど、

こんな翔にハマってるのかも...

はぁ、お兄ちゃんゴメンなさい。

こんな女々しい男に

ハマっちゃって。


「俺以外の男、好きにならないでね。
りぃこ取られたら、暴れ狂うから!」

「大丈夫だよ。心配しなくても。」

だって翔に暴れられたら

みんな大怪我しそうだもん。

怖くて浮気なんてできないよ...


春から翔は県外の大学に

行ってしまう。

馬鹿な翔だけど

ラグビーのおかげでなんとか

大学に進学出来たみたい。


だから春から私たちは遠距離。

私は別にいいんだけど

決まった時には翔が

嫌だって大騒ぎ。

今はなんとか落ち着いた

みたいだけどね。



騒いでいる翔を横目に

私は携帯でさっきの女の子のブログを

見ていた。

本当に可愛いなぁ。

ブログを読み進んでいると

男の子と写ったプリクラがあった。

可愛く笑っている女の子の隣で

優しく微笑んでいる男の子。

細身で身長も高そう。

爽やかという言葉が一番似合う。

私のタイプではない。

...はずなのに

何故だか目が離せない。

うまく言えないけど

心が落ち着くというか

この人を見ていると

自然と笑顔がこぼれてくる。

会ってみたいなぁ。