ファルは気が狂いそうになった。

なかなか帰ってこないシオンを心配し、川のそばの木陰まで見に行くと、そこにいると思っていたシオンがいないのだ。

かわりに岩の上にはベットリと血痕が残され、ファルは焦って辺りを見渡した。

水が岩にぶつかる音が大きく、多少の物音はかき消される。

ファルは奥歯を噛み締めた。

血痕を辿るにも、川を泳いで連れ去ったらしく、それ以上の血の跡は残っていない。

「ウルフ!」

短く口笛を吹いてから名を呼び、ファルは愛馬の方を向いた。

「行くぞ」

傍へとやってきた愛馬にまたがると、腹をクッと蹴り、ファルは川沿いを颯爽と駆けた。

誰だ、シオンに怪我を負わせ連れ去ったのは…!

ファルは前方を睨み据えて腰の剣を引き抜いた。

見つけ次第、叩き斬ってやる!