「それは出来ない」

どうして、と聞きたかったが、シオンは射抜くようなファルの眼差しに言葉を失い、俯いた。

ファルは大股で歩いてシオンに近付き、至近距離から彼女の顔を覗き込んだ。

「七色の瞳の乙女を必要としているのは、俺の父、王ダグダだ。それに」

そこで言葉を切り、ファルはシオンの頬に手の甲で触れた。

「お前は、俺ともう会わない気でいるのか。
俺から離れて生きていくのか?
俺がいなくても、お前は平気なのか」

シオンは慌てて首を横に振った。

「違うの、でも」

ファルは眉を寄せてシオンを見つめ続けた。

シオン……。

……お前は、俺とは違う男を選ぶのか。

切なさと苛立ちが混ざり合ったファルの表情を見て、シオンはどうしていいか分からず、思わず立ち上がった。

「顔を、洗ってくるわ。
傷も痛むから、冷やしてくる。
……後で話そう」

ファルは息をついて顔をそむけ、低い声で言った。