それを見た香が意味ありげにニヤつきながら口を開いた。

「私達がいた世界にはね、おとぎ話ってのがあるの。
大抵、主人公のお姫様は、王子様の口付けで目覚めるのよねーっ」

一瞬皆が顔を見合わせ、それからファルをジイッと見つめた。

「お前、これだけ看病しといて、口付けのひとつもしてないのか?」

「ほう。普段手の早い王子様も本命には唇も出ず……」

「お前ら、出ていけっ!」

無遠慮なアルゴの問いとマーカスの余計な言葉に、ファルは堪らず叫んだ。

「ほら、さっさとしてみなさいよ。目覚めるかも」

「なんだ、恥ずかしいのか?!」

「いつから奥手に」