突然、後ろから肩を掴まれ、シオンは思わず立ち止まった。

振り返ると、マーカスの榛色の瞳が優しく光っていた。

涙に濡れたシオンを黙って見ていたが、やがてマーカスは溜め息交じりで微笑んだ。

「言っただろう?アイツは色恋に疎いと」

「マーカス、マーカス!」

身を投げ出すようにしてしがみついてきたシオンに驚いて、マーカスは眼を見開いた。

それから、出会ってまだ数日と経っていないのに、こんなにも自分を信じ慕ってくれるシオンを愛しく感じ、マーカスは彼女を抱き締めてその背をトントンと叩いた。

「こらこら、こんなところを見られたら、アイツがまた焼き餅を焼くぞ」

「……焼かないもん。絶対焼かない。私は唯の捧げ物でしょ」

マーカスの動きが止まる。