「では何故、マーカスと乗ってたんだ」

ギ、ギグッ!

なにこの展開。

「さあー」

何が、さあー、だ。

ファルがムッとしながら、シオンに絡めた腕に力を込める。

「ファル、苦しい」

「俺をイラつかせた罰だ」

イラつかせたのは、マーカスだし!

「もうじき出発だが、今度は俺と乗れ。さもないと」

ファルがシオンを甘く睨んだ。

「口付けだけじゃ、すまない」

「っ……!」

熱い唇に、胸が高鳴る。

それと同時に、ひとつの罪悪感が身体を駆け抜けた。

人を斬るファルを受け入れられないと思いながらも、彼を求める自分はなんと薄弱なのだろう。

その時のシオンの心は、吹き荒れる風に翻弄される枝葉のようであった。