男を誘惑する術があれば、ファルの心も手に入れられると思っていた。

けれどその考えが、根元からグラリと傾きかけた時、愛しい相手に侮蔑と嫌悪感をあらわにされ、挙げ句に剣を向けられて、殺されそうになったのだ。

アイーダは、精神の愛を知らずにいた。

よく考えてみると、初めてファルを見た時も、その外見的な美しさ、強さに見惚れただけで、ファルの精神……内面にあるものを、想像すらしなかった。

魅力的な顔と、逞しい身体、類い希な素質を持つ剣の腕。

アイーダの中のファルは、それが全てであったのだ。

『俺が愛してるのは、シオンただ一人だ。
シオンの心があればこそだ。お前じゃ代わりになれない』

……シオンの心があればこそ。

ファルの、自分に向けられた、蔑むような眼差しを思い出しては悲しみにうち震え、アイーダは突っ伏したまま泣き続けた。