それから両腕の力だけで貯蔵庫へと這い上がると、元通りに格子を閉めた。

真夜中まで、ここに身を隠そう。

香に気絶させられた守衛兵は、まだ起きる気配がなかった。

◇◇◇◇◇◇◇

数時間後。

炊事場の高い窓から見える月の位置を確認すると、香は横たえていた体をゆっくりと起こした。

恐らく、屋敷内の警備兵がグッと少なくなる時間だ。

炊事場の床で伸びたままだった守衛兵は、意識を取り戻すと、立ち上がることが出来ずに這ったまま姿を消した。

香は格子を開けると、猫のようなしなやかさで調理台に飛び降りた。

弓は貯蔵庫に置いたまま、腰の短剣だけを右手で確かめ、炊事場を後にした。

明るすぎる月が、そんな香を静かに照らしていた。