その時である。

「うっ!!」

男は大きく仰け反ると、息を飲んだ。

首元に冷たいものが押し当てられ、それが剣であることがすぐに理解できた。

「今度女に手を出したら……命は無いものと思え。首をかき切り、腹を裂いてやる!」

「や、やめてくれぇ!」

男は白眼を剥いた。

香の拳が男の首を直撃し、その体がぐらついたところに、彼女の一撃が再び炸裂した。

顎に短剣の柄がめり込み、ミシッと音がした直後、

「ゲス!」

艶のある声が静かに響くと同時に、男の体がゆっくりと斜めに傾き、炊事場の床に倒れた。

アルラは、自由になった両手で、大理石の調理台に掴まると、身を起こして振り返った。

「あなたは……!?」

頬を涙で濡らしたアルラを見て、香は少し笑った。

「良かった。間に合ったみたいで」

「私を……助けてくれたのですか?」

香は頷いた。