竜は一瞬ビクッとして、美優の背中に手を回した。
これまでの数ヶ月間、ここへ来てから、前のお父さんとお母さん…
もう、けして戻ることのない家族のことを考えるのを避けていた。
一辺に思い出した、まだ鮮明に思い出せる
お母さんの
最後の笑顔、
最後の泣き顔…
そしてお母さんの体から体温が消えていった顔…
まだまだリアル過ぎて、鮮明過ぎて、考えるのを避ける。避けることしかできない。
どうしてこうなってしまったんだろう?
そんな疑問はもう考えない。胸がはち切れそいな位痛む。
人を失った気持ち…
竜の気持ちは痛いくらい分かる。
竜はそんなにも尚さんを好きだったんだ。
美優は何て声を掛けたらいいか正直分からなかった。
恋心の知らない美優には、竜を抱き締めることしかできない。
今も泣いている竜の背中を、ずっと暖めていることしかできない。
そんな自分が悔しい。
どうして…目の前にこんなに大切な人が苦しんでいるのに、
何も出来ないのだろう。
どうして、こんなに自分は無力なのだろうと。